問題社員を解雇しようとしたところ,会社の違法行為の内部通報に至った事例(3)

引き続き掲題の事例について考えてみたいと思います。

果たして今回の事例について、自浄作用を発揮する余地はなかったのでしょうか?

(事例の概要はこちら)


本件では,なるほどBの勤務態度には甚だ問題があった。

しかしながら,実際に理由のある内部通報がなされているにもかかわらず,それに基づく調査と改善策を施すことなく,解雇を先行させた判断には重大な問題がある。

むしろ,こうした場面においては,いったんなされた内部通報に対する処理をしっかり実施した上で,別途(できれば時期を待って,その間に指導,譴責処分などを積み上げた上で)解雇手続を行うべきであった。

拙速な解雇が紛争をいたずらに激化させた要素は否めず,前述の和解もかかる状況においては,むしろ上策というべき内容であろう。

【濫用的通報の虞と対処の可能性】

ところで,米国では,自身に対する解雇を阻止するための防衛的な内部通報が顕著とのことである。

すなわち,内部通報を理由とする不利益処分・解雇の禁止を逆手に取って,自身への解雇を抑止させるために,内部通報に及ぶ訳である。

この点我が国における法制度上は,会社において何らの通報対象事実が存しない場合で,しかも通報の主目的が図利加害目的である場合には,通報自体が公益通報者保護法による保護の対象ともならず(濫用的通報),通報者の解雇に支障は来さない。

しかし,当該事実関係の確認には一定の調査が必要であるため,実際上解雇手続に支障を来すことにならざるを得ない。

かかる事態を避けるためには,まず軽々に濫用的通報をさせないだけの高い次元でのコンプライアンスを日頃から実践することが非常に重要な意味を持つ。

通報のネタを濫用者に提供しないことで,濫用的通報を抑止するのである。

また,内部通報窓口においては,いたずらに通報者保護に偏ることなく,濫用的通報と認定した場合の懲戒手続をも視野に入れた対応が求められることになる。

昨今は,内部通報をよりし易くするために匿名化を徹底した外部相談窓口を導入するコンサル会社も目立つが,かかる制度設計が濫用的通報を誘引することになっては本末転倒というほかない。

重要なことは,正当な通報者の保護と情報管理の調和であり,濫用者に対するペナルティを課すことの可能な制度設計の導入である。

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