問題社員を解雇しようとしたところ,会社の違法行為の内部通報に至った事例(2)

前回に引き続き,問題社員を解雇しようとしたところ,会社の違法行為の内部通報に至った事例について考えてみたいと思います。

本事例については、依願退職を条件として,解雇の撤回と実労働時間ベースでの過去1年分の残業手当支払いに応じる内容で和解が成立しましたが、もしソフトランディングに失敗していたらどのような事態が想定されたでしょう?


A社ではBら支店長は管理職として扱われていたが,近時の裁判例は,社員が管理職(正確には,労働時間・休憩・休日の規定が適用されないところの,「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法41条))として扱われるための要件として,

(ア)経営方針の決定に参画し,あるいは労務管理上の指揮監督権を有するなど,その実態から見て経営者と一体的な立場にあること,

(イ)出退勤について厳格な規制を受けず,自己の勤務時間について自由裁量権を有すること(以上,静岡銀行事件における静岡地判昭和53年3月28日),

(ウ)非管理職社員との賃金格差

(以上,マクドナルド事件に関する東京地判平成20年1月28日)などの諸要素を考慮している。

すなわち,管理職として認定される場合とは,

(ア) 本社での経営会議に恒常的に出席しているか,あるいは支店レベルで広範な人事管理権が与えられているなどして,会社の経営自体に参画していると評価できる実態があり,

(イ) 自身の出退勤管理も自ら行っていて,本社の指揮監督を受けていない場合であって,さらに

(ウ)非管理職社員との賃金格差も相当程度の開きがあるような場合と解されている(前掲マクドナルド事件判決)。

本件では,そのような要素は甚だ不十分であるため,仮に本件が提訴された場合には,管理職としての扱いを受けることはおよそ期待できない状況であった。

非管理職との扱いとなれば,残業手当の支払いを余儀なくされることとなるが,その際,管理職として支払われていた管理職手当が残業手当に相当するものと評価できるかについて,裁判例が示す基準は,割り増し賃金部分とそれ以外の賃金部分が明確に区別され,判別可能である必要があり(最判平成6年6月13日,国際情報産業事件に関する東京地判平成3年8月27日など),就業規則の記載や個別の雇用契約での確認状況,従業員への説明・同意状況などが重要な意味を持つことになる(東京地判平成19年6月15日)。

本件では,残業時間数が相当程度に及んでおり,実労働時間数で算定すると10万円を遙かに上回る実態があったため,上記の区別を施しても不足が明確である上,そのような計算根拠が全く存せず,従業員への説明も全くなかったことから,時効前2年分の残業手当の支払いを余儀なくされることになった可能性は高い。


それのみならず,それ以上に危惧される点として,本件ではBが内部通報を行い,実際その通報内容に合理的根拠があったケースであるから,たとえ会社側が能力不足を理由とする解雇であるとして争ったとしても,公益通報を理由とする解雇であるとの認定を受けて解雇が無効とされる事態に陥る虞も多分にあった。

そうなれば,解雇後の給料も含めた高額な損害賠償が認定されることになったであろう。

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